フランス 1980年 マリアンヌ 10サンチーム ピエフォー金貨 PCGS-SP65
発行年:1980年
発行国:フランス(ペサック造幣)
発行枚数:推定500枚以下
鑑定機関:PCGS(Professional Coin Grading Service)社、鑑定枚数7枚
グレード:SP65(トップ3グレード)
重量:13.09グラム
直径:20.0ミリ
品位:92.0%金
表面:表面と裏面のデザインは、通常流通の10サンチーム・マリアンヌ硬貨と同じく、彫刻家アンリ・ラグリフールとA. ディユドンネによるものである 。
縁(エッジ)は、銀製ピエフォール10サンチーム および通常流通貨幣 と同様に「lisse」(平滑)である。
■ Gold Coins of the Worldによる評価額
EF:350ドル
UNC:600ドル
※評価額は長年更新されておらず、現在は上昇している可能性が高いです。
■基準価格不明
MONNAIES ROYALES FRANCAISES VIVTOR GADOURYでは
TB:400ユーロ
TTB:450ユーロ
SUP:1,300ユーロ
■ 「1980年 マリアンヌ10サンチーム金貨 ピエフォー特別打刻 (Pessac造幣局)」
このコインは、その希少性と特殊な製造方法により、世界の貨幣収集家から注目を集めている。
特に、通常の流通貨幣とは異なる「ピエフォー」という厚手の形式と、「特別打刻(Frappe spéciale)」という高品質な仕上げが特徴である。
本コインは、フランスの現代貨幣史、特に第五共和政期のコレクター向け特殊貨幣の文脈において重要な位置を占めている。
マリアンヌ像はフランス共和国の象徴であり、その肖像が施された貨幣は広く流通したが、この「金製ピエフォー」はごく限られた目的のために製造された極めて稀な品である。
■ フランス第五共和政と貨幣制度の背景
・第五共和政の成立と主要な歴史的節目
フランス第五共和政は、1958年9月28日の国民投票による憲法承認を経て、1959年1月8日にシャルル・ド・ゴール将軍が大統領に就任したことで正式に発足した 。
この政治体制は、フランスの戦後の政治的安定と経済成長を支える一方で、脱植民地化という複雑な国際情勢にも直面した 。
1962年10月28日には、大統領の直接普通選挙制を承認する国民投票が行われ、憲法が改正された 。
フランス第五共和政の貨幣制度の変遷は、単なる通貨の変更に留まらず、戦後の経済復興と国家再建という広範な歴史的背景と密接に結びついている。
貨幣の刷新は、経済の安定化と国民生活の再構築を象徴するものであったと考えられる。
・新フラン導入とその後の貨幣変遷
第五共和政期には、1960年に旧フランに代わる「新フラン (Nouveau Franc)」が導入された 。
これにより、貨幣価値が大幅に切り上げられ、貨幣体系が刷新された。
10サンチーム硬貨は、新フラン通貨(1960-2001年)の一部として1962年から2001年まで標準流通コインとして発行された 。
これまでに流通していたフラン硬貨には、1サンチーム、5サンチーム、10サンチーム、20サンチーム、1/2フラン、1フラン、2フラン、5フラン、10フラン、20フラン、100フランなど様々な額面が存在した 。
・マリアンヌ像の象徴的意味合い
マリアンヌは、自由・平等・友愛のフランス共和国の象徴であり、その肖像は多くのフランス硬貨に採用されてきた 。
10サンチーム硬貨の表面には、フリジア帽をかぶり、風になびく髪を持つマリアンヌの胸像が描かれている 。
このデザインは彫刻家アンリ・ラグリフール(Henri Lagriffoul)によるものである 。
裏面には、額面「10 CENTIMES」が2行で示され、その周りに小麦の穂とオリーブの枝、そしてフランスの国家標語「LIBERTE – EGALITE – FRATERNITE」(自由、平等、友愛)が描かれている。
このデザインはA. ディユドンネ(A. Dieudonne)によるものである 。
マリアンヌ像の継続的な使用は、政治体制の変化を超えたフランスの国民的アイデンティティの象徴としての貨幣の役割を示唆している。
貨幣デザインにおけるマリアンヌ像と国家標語の組み合わせは、流通貨幣が国民に国家の基本的な価値観(自由、平等、友愛)を日常的に再認識させる「ミニチュアのプロパガンダ」としての機能も果たしていたと考えられる。
これは、特殊なコレクターズコインであるピエフォー金貨においても、そのデザインが持つ象徴的価値が重要視された背景にある。
■ ピエフォー貨幣の概念と歴史
・ピエフォー(Piéfort)とは何か:その定義、特徴、および通常の流通貨幣との違い
ピエフォー(PiéfortまたはPiedfort)は、通常の貨幣よりも著しく厚く、多くの場合、同じ直径とデザインの標準貨幣の2倍の重量と厚さを持つ特殊な貨幣である 。
これらの貨幣は通常、流通を目的としておらず、主に造幣局の役人によるプレゼンテーション用、またはコレクター、高官、その他のVIP向けに打刻される 。
その厚さと重さが特徴であり、標準貨幣と混同されることを防ぐ目的もあった 。ピエフォール貨幣は、通常の貨幣とは異なり、非常に低い鋳造枚数で発行されるため、希少価値が高い 。
ピエフォーはフランス語の「pied」(足)と「fort」(強い、重い)に由来し、文字通り「重い足」を意味するが、慣用的に「重い重量」を指す 。
18世紀のフランス百科事典では「pied fort」として記録されており、1802年には英語のオークションカタログでも「piedfort」という用語が広く使用されるようになった 。
・フランスにおけるピエフォー貨幣の歴史的背景と目的
ピエフォー貨幣は12世紀のフランスで最初に記録され、その後イギリスにも広まった 。
初期の目的としては、行政承認のための試作貨幣(パターンコイン)、異なる造幣局の彫刻家に承認されたデザインを示すための見本、あるいは造幣局の役人による計算用カウンター(ジェトン)などが考えられている 。
後に、その希少性から王族、貴族、高官への権威ある外交的な贈答品として用いられるようになった 。
フランスでは1355年には「droit de pied fort」(ピエフォーの権利)という、新しい貨幣デザインのピエフォー版を受け取る資格者を定める正式な規則が制定されていた 。
これは、ピエフォー貨幣が単なる技術的な試作から、国家の威信を示す外交的贈答品、そして現代のハイエンドなコレクターズアイテムへと、その役割が進化してきたことを示している。
この進化は、貨幣が持つ「価値」が、単なる額面や金属の重さだけでなく、歴史的背景、製造技術、そして希少性によって多層的に形成されることを浮き彫りにする。
フランスは1890年にピエフォー貨幣の定期的な製造を再開し、現代でもコレクター向けに発行を続けている 。
■ 1980年 マリアンヌ10サンチーム金貨 ピエフォー特別打刻の詳細
・発行形態と希少性
「1980年 マリアンヌ10サンチーム金貨 ピエフォー特別打刻」は、単独で発行されたものではなく、「フランス共和国 1980年 10枚組金貨ピエフォープルーフセット (France: Republic 10-Piece Certified gold Piefort Proof Set 1980)」の一部として発行された 。
このセットには、1サンチームから50フランまでの10種類の額面の金貨ピエフォーが含まれており、10サンチーム金貨もその一つである 。
セット全体の正確な鋳造枚数は明記されていないが、セットに含まれる50フラン金貨の鋳造枚数が500枚であるとされていることから、このセット自体も500セット以下という非常に限定された数でしか製造されていないと推測される。
この極めて低い鋳造枚数が、本コインの並外れた希少性を決定づけている。
参考として、1980年発行の20サンチーム・マリアンヌ金製ピエフォールは136枚のみ、50フラン・ヘラクレス金製ピエフォーは100枚未満しか製造されていない 。
1980年10サンチーム金貨ピエフォーが単体ではなく、10枚組の金貨セットの一部としてのみ存在するという事実は、その収集価値と市場動向に大きな影響を与える。
■ 総評
1980年にフランス第五共和政によって発行されたマリアンヌ10サンチーム金貨ピエフォー特別打刻は、フランス現代貨幣史における極めて稀少かつ重要なコレクターズアイテムである。
このコインは、単体で流通したものではなく、「フランス共和国 1980年 10枚組金貨ピエフォープルーフセット」の一部として、ごく限られた数(セット全体で500セット以下と推定)で製造された。
「ピエフォー」という通常の2倍の厚さと重量を持つ特殊な形式に加え、「Frappe spéciale」すなわち「Belle Épreuve (Proof)」という最高品質の打刻が施されている。
これらの特性は、この金貨が単なる記念品ではなく、貨幣芸術の極致を目指して製造された工芸品としての側面を持つことを示している。
マリアンヌ像はフランス共和国の普遍的な象徴であり、この金貨のデザインはフランスの国民的価値観を体現している。
その歴史的背景、卓越した製造品質、そして圧倒的な希少性は、このコインを世界の貨幣収集家にとって非常に魅力的な対象としている。
真正性証明書と専門機関によるグレーディングは、その価値を保証し、収集における信頼性を高める上で不可欠である。
この金貨は、フランス貨幣の歴史と技術の粋を集めた、まさに至宝と呼ぶにふさわしい存在です。
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