アンティークコイン ヴァチカン (イタリア ローマ教皇領) 1937年 ピウス11世 100リラ金貨 PCGS-MS66

ゴールドコイン

アンティークコイン ヴァチカン (イタリア ローマ教皇領) 1937年 ピウス11世 100リラ金貨 PCGS-MS66

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

発行年:1937年

発行国:ヴァチカン(ローマ製造)

発行枚数:2,000枚

 

 

 

 

 

 

 

 

鑑定機関:PCGS(Professional Coin Grading Service)社、鑑定枚数18枚

グレード:MS66トップ2グレード

 

 

 

 

 

 

 

 

重量:5.19グラム

直径:20.7ミリ

品位:90.0%金



表面:コインの表面(Obverse)には、ピウス11世の右向きの胸像が精緻に描かれている 。

 

 

 

 

銘文はラテン語で「PIVS · XI · PONT · MAX · ANNO· XV. MISTRVZZI A·MOTTI·INC.」と刻まれているが、1937年銘では「Anno XVI」となる 。

 

 

 

 

これは「ピウス11世、最高司教、在位15年(または16年)。ミストルッツィ、アッティリオ・モッティ彫刻」と翻訳される。

 

 

 

 

デザイナーはアウレリオ・ミストルッツィ(Aurelio Mistruzzi)、彫刻家はアッティリオ・シルヴィオ・モッティ(Attilio Silvio Motti)である 。  



裏面:裏面(Reverse)には、立つイエス・キリストが右手に笏(Sceptre)、左手に十字架付き宝珠(Globus cruciger)を持ち、その足元には冠を持つ跪く子供が描かれている 。

 

 

 

 

銘文は「STATO DELLA CITTA’ DEL VATICANO. LIRE 100. 1936.」とラテン語で刻まれているが、1937年銘では年号が「1937」となる 。

 

 

 

 

これは「バチカン市国」「100リラ」を意味する。

 

 

 

 

裏面の彫刻もアウレリオ・ミストルッツィが担当している 。

 

 

 

 

このコインはローマ(イタリア)で鋳造された 。  


■ Standard Catalog of World Coins1701-1800による推定評価額

XF40:3,000ドル

MS60:4,000ドル

MS63:4,500ドル

※評価額は長年更新されておらず、現在は上昇している可能性が高いです。


■ コインの基本情報と貨幣学的仕様

 

 

 

 

・発行枚数(1937年/Anno XVI)

 

 

 

 

1937年銘(Anno XVI)の発行枚数は2,000枚とされており 、この枚数は非常に少ない。

 

 

 

 

 

 

 

シリーズ全体で見ると、1936年銘(Anno XV)が8,239枚、1938年銘(Anno —)がわずか6枚のみ現存するとされている 。

 

 

 

 

 

 

 

 

このデータから、1937年銘がシリーズ内で2番目に少ない発行枚数であることが明らかになる。  

 

 

 

 

 

 

 

 

コインの発行枚数が少ないことは、その市場価値を決定する上で極めて重要な要素の一つである。

 

 

 

 

 

 

 

 

発行枚数が少ないほど、収集家間の競争が激化し、結果として価格が上昇する傾向が見られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

特に、1938年銘のわずか6枚という極端な希少性は、1937年銘の2,000枚でも十分に希少な部類に入ることを際立たせ、収集家にとって魅力的な対象となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

この希少性は、単に供給が少ないというだけでなく、バチカン市国がこの時期に特定の金貨を大量に流通させる意図がなかったことを示唆している。

 

 

 

 

 

 

 

 

むしろ、このコインは外交的贈答品、記念品、あるいは国家としての独立を象徴する象徴的な意味合いが強かった可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、コインが「非流通コイン」として分類されていることとも一致する。


■ 歴史的背景と文化的意義

 

 

 

 

・ピウス11世の治世とバチカン市国の独立(ラテラノ条約)

 

 

 

 

ピウス11世は1922年から1939年までローマ教皇を務めた 。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の治世は、第一次世界大戦後の激動期、特にイタリアにおけるファシズムの台頭と、バチカン市国の独立という歴史的出来事と重なる。  


19世紀以来、イタリア王国政府と断絶状態にあったバチカンは、ピウス11世の主導により、1929年2月11日にベニート・ムッソリーニ率いるイタリア政府との間でラテラノ条約を締結した 。

 

 

 

 

 

 

 

 

この条約により、イタリア政府はバチカン市国を独立した主権国家として承認し、バチカンはイタリア政府を承認した 。

 

 

 

 

 

 

 

 

これにより、長年の「ローマ問題」が解決され、バチカンは国際法上の独立国家としての地位を確立した。

 

 

 

 

 

 

 

 

バチカン市国は、この独立を記念し、またその主権を象徴するために、1929年という独立の年に最初の金貨シリーズ(100リラ金貨)の発行を承認した 。

 

 

 

 

 

 

 

 

本コイン(1937年銘)は、この独立後のバチカンが発行した貨幣の一部である。  


ラテラノ条約は、バチカンが長年の領土問題を解決し、独立した主権国家としての地位を確立した画期的な出来事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

この条約締結直後にバチカンが独自の金貨を発行し始めたという事実は、貨幣が単なる経済的ツールではなく、国家主権と独立の強力な象徴として用いられたことを示唆している 。

 

 

 

 

 

 

 

 

1937年銘の100リラ金貨も、この継続的な主権の表明の一部と解釈できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

このコインは、バチカンが教皇の精神的権威だけでなく、新たに獲得した世俗的・政治的独立を世界に宣言する手段であったと考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファシスト政権下のイタリアとの関係性の中で、バチカンが独自の貨幣を発行し続けることは、その独立性を強調する重要な行為であったと言える。  


ピウス11世は、カトリック教会の権威を強化し、共産主義やドイツの国家社会主義(ナチズム)といった「無神論的共産主義」「新異教的影響」に対抗するため、カトリック・アクションの推進など、国際外交において重要な役割を果たした 。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼のコインは、単なる貨幣以上の、教皇庁の権威と独立の象徴としての意味合いを持つ。  


・「Anno XVI」の意義とファシスト暦の導入背景

 

 

 

 

コインに刻まれている「Anno XVI」は、ファシスト暦(Fascist Era)における「16年目」を意味する 。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファシスト暦は、ベニート・ムッソリーニがローマ進軍を成功させ、政権を掌握した1922年10月28日を紀元とするため、「Anno XVI」は西暦1937年に相当する 。

 

 

 

 

 

 

 

 

イタリアのファシスト政権が発行したコインには、通常、キリスト教暦(アラビア数字)とファシスト暦(ローマ数字)の両方が記載されていたことが確認されている 。  


ファシスト政権は、古代ローマ帝国の栄光を継承し、「第三のローマ」を築くというイデオロギーを掲げた 。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファシスト暦の導入は、この新しい時代が古代ローマの権威と連続性を持つことを象徴し、ムッソリーニ自身もユリウス・カエサルやアウグストゥスといったローマの指導者を模範とした 。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファシズムは、国家の再建と国民の動員を強調し、その象徴としてファスケス(Fasces)などの古代ローマのシンボルを多用した 。

 

 

 

 

 

 

 

 

新しい暦の導入も、国民の意識をファシスト体制に統合し、歴史の新たな章を開くというメッセージを伝えるものであった。  


バチカン市国はラテラノ条約によりイタリアから独立した主権国家であるにもかかわらず、そのコインにイタリアのファシスト暦(Anno XVI)が併記されている事実は、両者の関係が単なる国家間の独立関係にとどまらず、複雑な政治的相互作用があったことを示唆している 。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、バチカンが政治的に中立を保ちつつも、当時のイタリアの支配的な政治体制の影響を完全に排除できなかった、あるいは何らかの形で共存の姿勢を示していた可能性を示唆する。

 

 

 

 

 

 

 

 

この「Anno XVI」の刻印は、コインが単なる貨幣ではなく、当時のイタリアとバチカンの政治的・歴史的状況を映し出す「タイムカプセル」としての役割を果たすことを意味する。

 

 

 

 

 

 

 

 

収集家にとっては、このコインが持つ歴史的背景の深さが、その収集価値をさらに高める要因となる。  


・コイン発行当時のイタリアとバチカンの政治・経済状況

 

 

 

 

1937年当時、イタリアはムッソリーニ率いるファシスト党による全体主義国家体制下にあり、あらゆる政治的反対勢力が抑圧されていた 。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファシスト政権は経済の近代化、伝統的価値観の推進、領土拡大を目指していた 。  


ラテラノ条約により、バチカンは独立を確保したが、これは教会とファシスト体制が政治的な支持と祝福を得るための協定でもあった 。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、教会と政権の間には、特に青年活動や労働分野における教会の役割を巡って緊張も存在した 。

 

 

 

 

 

 

 

 

ピウス11世は、国家の神格化や人種差別といった全体主義政府の原則に強く反対する教義を表明していた 。  


第一次世界大戦後、イタリアの通貨リラは大幅に価値を下げ、インフレが進行していた 。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファシスト政権はリラの安定化を試みたが、金貨はごく少量しか鋳造されず、実質的な流通はなかった 。

 

 

 

 

 

 

 

 

金は主にイタリア銀行の金庫に保管され、国際決済に用いられた 。

 

 

 

 

 

 

 

 

1930年代は世界恐慌の時期であり、ナチス党とアドルフ・ヒトラーの台頭、そしてムッソリーニのファシスト独裁が強化されるなど、世界的に激動の時代であった 。

 

 

 

 

 

 

 

1936-38年には、エチオピア征服による「帝国」創設を祝う新しいコインセットが発行されたが、これは国際連盟の制裁下で行われた 。  


1937年当時のイタリアの経済状況は、リラの価値が低く、金貨が実質的に流通していなかった 。

 

 

 

 

 

 

 

 

このような背景でバチカンが金貨を少量(2,000枚)発行したという事実は、このコインが経済的流通手段としての役割よりも、政治的・象徴的な目的を持っていたことを強く示唆している。

 

 

 

 

 

 

 

 

この金貨は、バチカン市国が独立国家としての地位を確立し、その主権と権威を国際社会にアピールするための「外交的ツール」または「国家の象徴」として機能した可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

また、ファシスト政権との複雑な関係の中で、バチカンが自らのアイデンティティと価値観(全体主義への反対など)を静かに表明する手段であったとも解釈できる。  


■ 総評

 

 

 

 

バチカン市国 ピウス11世 1937年 100リラ金貨(小型モジュール、Anno XVI、KM#10)は、単なる貴金属貨幣ではなく、貨幣学的、歴史的、そして政治的に多層的な意義を持つ稀少なコインである。

 

 

 

 

 

 

 

 

その物理的仕様は、当時のバチカンが発行した金貨の標準を示している 。

 

 

 

 

 

 

 

 

特に、アウレリオ・ミストルッツィとアッティリオ・シルヴィオ・モッティによる精緻なデザインは、ピウス11世の肖像と、キリスト、そしてバチカン市国の象徴を美しく表現している 。  


発行枚数わずか2,000枚という希少性は 、このコインの市場価値を地金価値(約500ドル)をはるかに超える数千ドル(XFで  3,000、MS60で4,500)に押し上げている主要因である 。

 

 

 

 

 

 

 

 

NumisBidsでのMS-66グレードの3,000ドルでの落札実績や、Heritage AuctionsでのMS67 NGCの評価は、その具体的な市場価値を裏付けている 。  


歴史的背景として、このコインは1929年のラテラノ条約によるバチカン市国の独立という画期的な出来事の後に発行されたものであり 、教皇庁の主権と国際的地位の確立を象徴している。

 

 

 

 

 

 

 

 

また、「Anno XVI」というファシスト暦の併記は、当時のイタリアのファシスト体制との複雑な関係性を示唆しており 、このコインが持つ歴史的文脈の深さを一層際立たせている。  


総合的に見て、1937年銘100リラ金貨(KM#10)は、その稀少性、歴史的意義、そして美的価値から、世界の貨幣収集市場において極めて重要な位置を占めるコレクターズアイテムである。

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、貨幣学の研究者、熱心な収集家、そして歴史的資産への投資を検討する者にとって、深く探求する価値のある対象と言えるでしょう。

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