アンティークコイン オーストリア第一共和国 1929年 100シリング金貨 NGC-PL65
1929年発行(ウィーン造幣局)
発行枚数:74,849枚
NGC社鑑定済み78枚、PL65は3枚でトップ2グレードです。
重量:23.5245グラム
直径:33.0ミリ
品位:90.0%金
表面:共和国の紋章
1929年製100シリングの意匠を担当したのは、著名な彫刻家でありメダル制作者でもあったアルノルト・ハルティヒ(Arnold Hartig)である。
彼のデザインは、帝政時代の様式美を継承しつつも、新生共和国の民主的な理想を反映させた「ネオ・クラシック」の傑作と評価されている。

表面には、オーストリアの国章である「鷲」が描かれている。
特筆すべきは、この鷲が右足に鎌を、左足にハンマーを保持している点である。
これは一見すると共産主義的象徴のように誤解されがちだが、オーストリアの文脈では「農民(鎌)」と「労働者(ハンマー)」の団結、そして鷲の頭に冠された城壁冠(市民階級)を合わせた「三階級の調和」を象徴している。
鷲の胸に刻まれた盾は連邦公用語としてのオーストリアを強調し、周囲の「REPUBLIK ÖSTERREICH」の文字が国家のアイデンティティを宣言している。

裏面:100 SCHILLING
裏面の中央には額面を示す「100 SCHILLING」の文字が刻まれ、その周囲をオーストリアの国花であるエーデルワイスの枝が飾っている。
エーデルワイスの精緻な描写は、ハルティヒの卓越した観察力と彫刻技術の賜物である。
下部には発行年である「1929」が配置されており、ダイ下部には「HARTIG」の署名を確認することができる。
このバランスの取れた構図は、貨幣としての信頼感と、アルプス文化への誇りを同時に表現している。
基準価格
Gold Coins of the Worldでは
VF 900ドル
EF 1,450ドル
1.ウィーン造幣局の歴史的伝統と1929年の鋳造環境
1929年製100シリング金貨を理解するためには、まずその製造元であるウィーン造幣局の歴史的卓越性を考慮しなければならない。
ウィーン造幣局は1194年にリチャード獅子心王の身代金を基に設立されたという伝説を持ち、800年以上にわたり欧州最高峰の鋳造精度を維持してきた。
1920年代後半の造幣局は、帝政崩壊後の新たな国家的アイデンティティを模索する共和国の要請に応え、伝統的な彫刻技術と近代的な機械工学を融合させていた。
【鋳造技術の進化とリング・ミニングの採用】
19世紀以前のウィーン造幣局では、スクリュープレス機による手動または半自動の鋳造が行われていたが、1830年にはより精緻な「リング・ミニング(Ring Minting)」技術が導入された。
この技術により、貨幣の周囲に均一な圧力をかけながらエッジ(縁)を成形することが可能となり、本貨に見られるような完全な円形と均整の取れたリーデッド・エッジ(ギザ縁)が実現された。
1929年当時、ウィーン造幣局は年間約4億5000万枚のコインを製造する能力を誇っており、その品質管理基準は欧州諸国の中でも群を抜いていた。
【1929年における製造工程の特筆性】
1929年は、世界恐慌の足音が忍び寄る一方で、オーストリア国内では経済安定化政策が一定の成果を収めていた時期である。
この時期に製造された金貨は、通貨の信頼性を担保するための象徴としての役割を担っていたため、ダイ(極印)の管理が極めて厳格であった。
特に本個体のような「プルーフライク」の特性を持つ個体は、研磨されたばかりの新しいダイを使用して鋳造された初期のストライクであることを示唆している。
2.オーストリア第一共和国の通貨改革と100シリングの導入
1924年12月20日の「シリング法」により、旧来のクローネに代わってシリングが導入された。
これは、1シリング=10,000クローネというデノミネーションを伴う劇的な改革であり、ハイパーインフレを終息させるための不可欠な措置であった。
【金本位制への回帰と100シリングの役割】
シリングの導入は、オーストリアが国際的な金本位制へ復帰することを宣言するものであった。
100シリング金貨は、その最高額面として、国家の支払能力と経済的安定を象徴するフラッグシップ・デノミネーションとして定義された。
1925年から1938年までの第一シリング時代において、これらの金貨は日常的な流通よりも、銀行の準備資産や大口の国際決済、あるいは富裕層による貯蔵手段として機能した。
1929年発行(ウィーン造幣局)
発行枚数:74,849枚
NGC社鑑定済み78枚、PL65は3枚でトップ2グレードです。
重量:23.5245グラム
直径:33.0ミリ
品位:90.0%金
本貨は、20世紀初頭の激動する欧州史を静かに物語る稀有な証人です。
ウィーン造幣局の800年に及ぶ伝統が結実したその鋳造品質は、プルーフライクという鏡面仕上げを通じて、アルノルト・ハルティヒの彫刻に生命を吹き込んでいます。
2026年の現在、金価格の高騰という経済的背景が本貨の価値を力強く支えており、地金としての堅実さと、希少貨としての将来性を完璧なバランスで両立させています。
74,849枚という発行枚数は一見潤沢に見えるが、その後のアンシュルス、戦火、そして溶解の歴史を生き延び、かつPL-65という宝石のような状態で現代に残された個体は、文字通り「際立った存在」です。
投資家にとってはインフレに対する強力なヘッジ手段となり、コレクターにとっては共和国時代のオーストリアが誇った「シリングの威信」を体現する至宝です。
本貨は、手にする者に歴史の重みと、黄金の恒久的な美しさを同時に提供する、稀に見る価値ある一品です。



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