アンティークコイン 神聖ローマ帝国 ヴュルツブルク司教領 1779年 フランツ・ルートヴィヒ・フォン・エルタール グルデン金貨 PCGS-MS62PL
1779年発行
発行枚数不明
PCGS社鑑定済み1枚、MS62は1枚でトップグレードです。
重量:3.25グラム
直径:22.0ミリ
品位:77.0%金
表面:右向きのフランツ・ルートヴィヒの肖像

表面には、右を向いたフランツ・ルートヴィヒ・フォン・エルタールの胸像が精緻に描かれている。
彼は司教としての典礼服を身に纏い、その表情は啓蒙主義的な理知と、領民を慈しむ慈愛を感じさせるものとして表現されている。
周囲の刻印(レジェンド)は、ラテン語で彼の公的な称号を網羅している。
FRANC • LUD • D • G • EP • BAM • ET WIR • S • R • I • P • F • O • DUX これは「神の恵みによるフランツ・ルートヴィヒ、バンベルクおよびヴュルツブルクの司教、神聖ローマ帝国の諸侯、東フランケンの公爵」を意味する。
ここで注目すべきは、「東フランケン公爵」という称号である。
1441年以来、ヴュルツブルク司教はこの称号を保持しており、世俗の諸侯と同等の騎士道的・軍事的権威を有していたことを示している。

裏面:ヤシの木と司教領の紋章
裏面のデザインは、下部に配置された豪華な装飾を伴う紋章と、その上部で枝を広げる一本のヤシの木によって構成されている。
ヤシの木の採用は、18世紀のエンブレム学(記章学)において重要な意味を持つ。
ヤシは古来より「勝利」「不朽」「正義」を象徴し、特に旧約聖書の詩篇92章12節(「正しい者はなつめやしの木のように栄え」)に由来する宗教的なメタファーとして用いられることが多い。
新司教の即位に際してこのモチーフを選んだことは、彼の統治が司教領に繁栄と正義をもたらすことへの期待を視覚的に表現したものと解釈できる。
紋章部分は、司教個人の家紋と司教領の公的な紋章が組み合わされている。
・フランケンの熊手:3つの白い尖った山(三位一体)と4つの赤い山(東西南北の四方)を表し、天と地の調和を象徴する 。
・「レンフェーンライン」:槍に取り付けられた紅白の旗で、フランケン公爵としての世俗的な支配権と軍事的指導権を象徴する。
これらの要素を包み込むように描かれたマントと冠は、神聖ローマ帝国における彼の地位の高さ(諸侯としての格位)を強調している。
基準価格
Gold Coins of the Worldでは
EF 1,000ドル
UNC 2,500ドル
1.フランツ・ルートヴィヒ・フォン・エルタールの統治と貨幣政策
1730年にロール・アム・マインで生まれたフランツ・ルートヴィヒ・フォン・エルタールは、マインツ、ヴュルツブルク、ローマで神学を、ウィーンで法学を学んだ、当時屈指の知識人であった。
1779年3月18日にヴュルツブルク司教に、同年4月12日にバンベルク司教に満場一致で選出された彼は、自身の「統治原則」において、領主のあるべき姿を理想化し、それを実践することに心血を注いだ。
彼の統治は、教育制度の改革、刑法の現代化、そして何よりも貧困層への救済措置の徹底によって特徴付けられる。
バンベルクに設立された病院は当時のモデルケースとなり、ヴュルツブルクのユリウス病院の大規模な改修と拡充も彼の手によって成し遂げられた。
このような大規模な公共事業を支えるためには、健全な国家財政と信頼性の高い貨幣制度が不可欠であった。
1779年の金貨発行は、新司教の即位を祝う記念的な側面を持ちつつも、ザインスハイム前司教時代の終焉を告げ、エルタール時代の経済的安定を示すための実利的な目的も兼ね備えていた。
当時の金貨は、高額決済や外交的な贈答、あるいは有事の際の国家備蓄としての役割を果たしており、その意匠には司教領の格位を誇示するための洗練された美学が求められたのである。
【1779年グルデン金貨】
ヴュルツブルクの金貨体系において、グールドグルデンは特殊な立ち位置にある。
18世紀のドイツ諸邦では、純度の高いダカット(品位.986以上)が国際的な取引で主流であったが、国内向けの金貨として、より低い品位の金を用いたグルデン貨が流通していた。
本金貨は、まさにこの伝統に属するものである。
2.彫刻師ヨハン・ファイト・リージングの芸術性
本貨の優れた意匠を支えているのは、当時のヴュルツブルク造幣局における主任彫刻師ヨハン・ファイト・リージングの卓越した技術である。
リージングは1763年から1789年頃にかけて活躍し、数多くの美しいメダルや硬貨を手掛けた。
彼の作風は、肖像の髪の毛一本一本や、衣類の質感までも再現する緻密な線刻に特徴がある。
1779年の金貨における彼の仕事は、後の1780年代のターラー銀貨(聖キリアンを描いたもの)で見られるダイナミックな構図の先駆けとなっており、バロックからネオクラシック(新古典主義)への移行期のスタイルを反映している。
造幣局長のヨハン・ニコラウス・マルティネンゴの管理下で、リージングは単なる通貨としてではなく、芸術作品としての質を追求した。
本貨に見られる「フロスティ(霜が降りたような)」な質感は、彫刻された極印(ダイ)の凹部に微細な梨地処理を施すことで、圧印時に美しいコントラストを生み出す工夫の結果である。
1779年発行
発行枚数不明
PCGS社鑑定済み1枚、MS62は1枚でトップグレードです。
重量:3.25グラム
直径:22.0ミリ
品位:77.0%金
本金貨は、以下の三つの理由から、世界最高峰のドイツ金貨コレクションに加えるに相応しい逸品であると結論付けられます。
・デザインの特異性:ヴュルツブルクの金貨において聖キリアンという伝統的な図像を離れ、ヤシの木という啓蒙主義的な象徴を採用した1779年銘は、司教領の思想的転換を象徴する希少な芸術作品です。
・鑑定状態の優秀性:PCGS MS-62 Prooflikeという評価は、全現存数の中でトップクラスの保存状態であることを証明しており、特に初期ストライクのみが持ち得る鏡面のような光沢は、所有者に代えがたい満足感を与えます。
・投資的ポテンシャル:近年の世界的なアンティークコイン市場、特にドイツ諸邦の金貨に対する需要の急増を背景に、本貨のような希少銘柄かつ特殊鑑定個体は、価格の安定性と将来的な上昇期待が極めて高いです。
フランツ・ルートヴィヒ・フォン・エルタールの治世がヴュルツブルクにとっての「黄金時代」であったように、この金貨もまた、その時代の光を今日に伝え続けています。



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