アンティークコイン ベルギー ブラバント公国 1355-83年 ヨハンナとヴェンツェル公 1フラン・ア・シュヴァル金貨 PCGS-MS62
1355-83年発行(ルーヴェン造幣所)
発行枚数不明
PCGS社鑑定済み2枚、MS62は1枚でトップグレードです。
重量:3.83グラム
直径:28.0ミリ
品位:推定99.5%金
表面:武装した騎士

表面には、左方へ疾走する馬上の騎士が描かれている。
騎士は完全な甲冑を身にまとい、右手に剣を振りかざしている。
この「黄金の乗り手」としての姿は、中世の騎士道精神を体現するものであり、統治者が公国の守護者であることを視覚的に示している。
14世紀は騎士階級が軍事的な変革に直面していた時期であり、この古典的な騎士像の提示は、伝統的な封建的支配の正当性を強調するプロパガンダとしての側面を持っていた。

裏面:四葉飾りの十字架

裏面には、二重の四葉飾りの中に末端が百合の紋章で装飾された十字架が配されている 。
四葉飾りはゴシック様式の建築や美術に共通するモチーフであり、調和と秩序を象徴している。
また、十字架の中心にはロゼットが配置されることが多く、宗教的な権威による統治の裏付けを示唆している。
基準価格
Gold Coins of the Worldでは
VF 2,500ドル
EF 3,500ドル
1.黄金の騎士(フラン・ア・シュヴァル)の形式と起源
「黄金の騎士」の意匠は、1360年にフランス王ジャン2世(良王)によって導入された「フラン・ア・シュヴァル」を直接のモデルとしている。
フランスにおけるこの金貨の導入は、ポワティエの戦いでイングランド軍の捕虜となったジャン2世の身代金を支払うためのものであった。
コインの名称である「フラン(Franc)」は「自由」を意味し、王の解放を象徴すると同時に、1リーヴル・トゥルノワという通貨単位の別名となった。
ブラバントにおけるこの形式の採用は、フランス貨幣制度の影響力が低地諸国に波及していたことを示すと同時に、ヨハンナとヴェンツェルがフランス王室に匹敵する威信を自らの貨幣に投影しようとした試みでもあった。
【ルーヴェン造幣所と鋳造技術】
本貨が鋳造されたルーヴェンは、当時ブラバント公国の最重要都市の一つであった。
14世紀初頭、ルーヴェンは10万人の人口を誇り、布地産業とリネン貿易の拠点として繁栄を極めていた。
造幣所としてのルーヴェンの活動は、公国の経済的自立を支える柱であり、その製品の質は国際的な取引においても高い信頼を得ていた。
14世紀の鋳造技術はハンマー打ちによる手作業であり、コインの形状は往々にして不規則となるが、本貨(MS62)に見られるように、意匠の細部が鮮明に残っているものは稀である。
特に馬の筋肉の描写や騎士の甲冑の重なり、そして裏面の幾何学的な四葉飾りの対称性は、ルーヴェンの金工職人の高い技術力を物語っている。
【ブルゴーニュ時代への移行とその後】
ヨハンナは1406年に84歳という長寿で没したが、彼女には直接の後継者がいなかった 。
このため、ブラバント公国は彼女の姪の息子であるブルゴーニュ公家のアントワーヌに引き継がれた。
これは低地諸国がブルゴーニュ公国の支配下で統一されていく過程の重要な一歩であった。
ブルゴーニュ公フィリップ・ル・ボン(善良公)の時代になると、1434年の貨幣改革によって、フランドル、ブラバント、ホラント、エノーの各領土で共通の貨幣制度が導入された。
興味深いことに、この統一貨幣制度においても「黄金の騎士(Goudrijder)」という名称と馬上の騎士の意匠は引き継がれた。
これは、ヨハンナとヴェンツェルが確立した意匠が、商業的に広く認知され、信頼されるブランドとなっていたことを証明している。
1355-83年発行(ルーヴェン造幣所)
発行枚数不明
PCGS社鑑定済み2枚、MS62は1枚でトップグレードです。
重量:3.83グラム
直径:28.0ミリ
品位:推定99.5%金
本貨は、14世紀という激動の時代が生んだ傑作です。
フランスの貨幣制度の影響を受けつつ、ブラバント独自の政治的・経済的文脈を反映させたその意匠は、ゴシック美術の粋を集めたものです。
ルーヴェン造幣所で鋳造されたこの金貨は、繁栄する都市経済と、それを支える高度な職人技術の産物でした。
現代においてMS62という高い鑑定評価を得た個体は、中世の栄光を傷一つない形で現代に伝えるタイムカプセルに他なりません。
収集家や歴史家にとって、この「黄金の騎士」は、単なる金塊の加工品ではなく、ヨハンナとヴェンツェルという二人の統治者が、戦乱と財政難の時代にあって公国の自立と尊厳を守ろうとした決意の象徴です。
その希少性は、失われた中世の断片としての価値をさらに高めており、低地諸国の貨幣史において不朽の地位を占め続けるでしょう。



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